ドレスとダイアモンド

松本隆50周年トリビュートライブ

風街古都コトノハ


東京に戻りました。寒い朝です。好きな朝です。改めてまして素晴らしい時間を素晴らしい皆様とご一緒できました事お礼申し上げます。共演の皆様、スタッフの皆様、松本隆さん、視聴してくださった皆様ありがとうございました。アーカイブ何度でもご覧になって下さい。その度にもっとしあわせになれます。

ドレスとダイアモンド

2002年の11月、吉祥寺マンダラ2で、私は初めて声とウクレレだけで1時間演奏しました。それまで様々なスタイルでライヴはしましたが、ウクレレだけでというのは、この日が初めてでした。当時蒲田に住んでいた私は、京浜東北線から中央線に乗り換え吉祥寺まで。私は初めてのひとりウクレレ弾き語りにとても緊張していました。車内で1時間のセットリストはこれがベストなのか、お客様はどのくらい来て下さるのかなどと考え始めたら、緊張は増すばかりで気がつけば吉祥寺に到着、たくさんの人が乗り込んできて慌てて下車しました。マンダラ2に着いた時、ウクレレを大事に抱えるあまり衣装をいれたトートバッグを電車の棚に置き忘れたことに気がつきました。駅に連絡しましたがみつかりませんでした。用意した光沢のあるベージュのポワンとした大きな袖のロングドレス、古着ですがちょっとお高い、一目惚れしたドレスでした。だからリハが終わったら吉祥寺で代わりのワンピースでもという気持ちにはもうなれなくて、私服のままでいこうと決めました。黒いタートルネックに黒いジーンズ。真っ黒でした。

ライヴは3組の出演者、私は最後でした。お客様は7名と出演者。ひとりでMCはなく続けて12曲くらいうたいました。客席は暗くぼんやりとした暗い人影だけでした。私は真っ直ぐ前を向いて唄います。譜面は見ません。楽譜もかかないので全て頭の中に入れてから演奏することが自然なスタイルとなりました。真っ直ぐ見つめる先に男性の影だけがみえました。全く動いていませんでした。声とウクレレだけで、聴いている方が飽きなかったかがとても気になりました。全て私のオリジナルでした。でもみなさんじっと聴いてくださっていたことで少しだけほっとしました。ライヴは飽きると無意識に足を組み換えたり飲み物を何度も口にしたりするので、この日はもしかしたら良い演奏ができたのかもしれないと思いました。演奏がおわりステージの袖にある黒いカーテンの内側でウクレレをしまっていると、眼鏡をかけた丸顔のスピッツの草野さんのようなとても心地よいやさしい声の男性が訪ねてきました。「ノラオンナさんお疲れ様です。素晴らしかったです。風待レコードにデモテープ送られましたよね?今日松本隆さんがお見えになっています」私が真っ直ぐうたう先にみえたあの影は松本隆さんでした。

話は急に2020年の11月になります。あれから18年。風待レコードからデビューし、その後私は休むことなくライヴをしてきました。正直音楽を休むという感覚が私はわかりません。特別ではないから。日常に歌はあるから。アルバムも数年ごとに作っています。今はノラオンナレコードという私のレーベルから何の縛りもなくリリースし、ライヴも企画しています。スタッフもマネージャーもいません、ある意味、私はノラオンナのスタッフでありマネージャーでありプロデューサーです。自由きままなノラオンナですから。でもこの文字のように右から左に流れるようなエレガントな野良でいたいと思っています。野良はひとりの厳しさを知っています。そして野良だからこそ、いただくやさしさに心底感動します。

松本隆50周年トリビュートライブ 
風街古都コトノハ

このステージで声とウクレレを届けられたこと。松本さんから最大級の厳しさとやさしさをいただいたと思っています。お祝いのライブなのにわたしが大きなダイアモンドをいただいた気持ちです。瞳には入りきらないし、悲しい瞬間じゃなく嬉しい瞬間まで大切にとっておきたいです。

昔、ラジオで松本さんが、みんな、これはダイアだぞって言わないと、石ころだと思って誰も気がつかないからぼくが言ってあげないと。と言って下さいました。18年後ダイアかどうかは私自身いまだにわからないです。でも声とウクレレがあればなんだかしあわせなんです。

私はメルカリで、ひとが必要ないものと必要なものを出逢わせることが大好きでよくみていますし、よく買います。先月「ドレス」と打ち検索したら、あるドレスが表示されました。心臓が止まりそうになりました。光沢のあるベージュのポワンとした大きな袖のロングドレス、あの日忘れてなくしてしまった、あのドレスにそっくりでした。あのドレスはもっと裾が長く地面につきましたが、このドレスは私の身長にぴったりでした。もしかしたら18年前のあの日、まだわたしにはドレスは必要なかったのかもしれません。

ノラオンナ

2020年11月5日
寒い朝の東京にて

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